あなたは本当に美味しい蜂蜜を食べたことはありますか?
僕はほんの子供の頃、まだ5歳とか6歳だったろうと思いますが、親戚の家に顔を出しに行くとかで遠く遠く~あれは確か新潟のどこかだったのですが~そこの家で唐突におやつで出してもらった蜂蜜を舐めた瞬間が、本物の蜂蜜との出会いでした。幸運なことだったろうと思います。子どもながらにその味が本当に美味しくて美味しくて、忘れられない記憶として味蕾に刻み込まれてしまったのでした。
それ以来、どんな蜂蜜を舐めてもまったく満足行かない。
スーパーやドラッグストアで売っている外国産蜂蜜は言うまでもなく。あんまり輸入蜂蜜を悪く言うのも憚られる気持ちはありますが、やはり正直に言ってしまわねばなりませんね、あれらの蜂蜜は、雑味、渋み、苦みのようなものがたくさん含まれていて、とてもじゃないですが子どもの頃に新潟で舐めた本物とは別です。
ならば道の駅で国産蜂蜜を買えば、本物に出会えるのだろうか?有名ブランドの蜂蜜を、アンテナショップで買うのならばどうか?物凄くオシャレで高級感のあるデザインの蜂蜜のセレクトショップの商品ならばどうか?
全部試しましたが、やはり違う。どれもぜんぜん違うんです。本物の蜂蜜には皆おしなべて圧倒的な透明感があります。
あの“蜂蜜”はどこに行けば食べられるのだろう?
子どもの頃の記憶の改竄だったのだろうか?
もう二度とあのような蜂蜜を味わうことはできないのかな?
記憶の彼方に封印された本物の蜂蜜との再会は案外あっけなく起こります。それは、僕が糸島に移住してお遊び半分で飼い始めた西洋蜜蜂がもたらしてくれました。圧倒的な透明感、雑味なくしかし突き抜けた風味と甘み、口に含むととろけるように溶けてなくなる感触、これこそが僕が求めていた本物の蜂蜜でした。
余談ですが、養蜂家になっての知識を総動員して記憶の断片の新潟の蜂蜜を回顧してみるに、あれはおそらくアカシア蜜だったのでしょう。癖のないまろやかな甘味。おそらくは、地元の養蜂家から入手したものなのかもしれません。
一方で、当地の蜂蜜の主力蜜源はみかんです。はっきりした柑橘の存在感と主張、その後に来る風味の余韻。新潟と福岡ではお互いに全く別の花蜜を原料とする蜂蜜ではありますが、共通点は蜂蜜のもつ透明感です。雑味の無さとも言えます。嘘のような本当の話なのですが、僕は幼少期からずっと、蜂蜜の持つ透明感を求めて生きてきたのかもしれません。
かつて果樹園をやろうとして西洋蜜蜂を飼い始めたものの、育てようとした果樹は気候適さず枯れてしまい、脇役のはずだった蜜蜂にとって皮肉にも最高の適地だったのでした。みかん畑に囲まれているという地理環境がとても恵まれていて。
さて、本題に戻ります。
本物の蜂蜜を手に入れるためにどうすればいいか?
答えは、養蜂家から直接買ってください、ということになります。
尚且つ、蜂蜜の味に拘って作っている養蜂家から、です。
本物を作っている養蜂家は自分の蜂たちが産み出した最高の蜂蜜を、十把一絡げにして他のと混ぜて売られるのが嫌ですから、きっと問屋さんに卸さないと思います。だから直接売ってくれる養蜂家を見つけましょう、と。
これは僕自身が養蜂家になってからも不思議で仕方ない事なのですが、本物の蜂蜜はなぜだかほとんど売ってないです。地元の産直にも無い、全国的に名の通った蜂蜜店でも買えない。誰かが買い占めてるのかな?と、勘ぐりたくなるぐらいに稀少。
いや、普通に考えて無いはずは無いんですよね。色々な幸運に恵まれながらではありつつも、僕でも作れるんですから、他の養蜂家さんが作れないはずがない。であるのにも関わらず、買えないし、売ってないのです。だから僕は本気で不思議だと思っているんです。本物の蜂蜜と出会うことの難しさについて。
もしも買えたんであればそれは幸運だと思います、その養蜂家さんをマークして必ずリピートしましょう。これは蛇足ですが、デザイナーズショップ的な高級輸入蜂蜜店(お店の中は超かっこいい)で本物の蜂蜜に当たったことは皆無です。不思議なことです。(ポジショントークと思ってくださって大丈夫です)
当養蜂場では、本物の蜂蜜にこだわって生産し、販売しています。このレベルの蜂蜜は僕がかつて色々な蜂蜜を買い漁っていた頃の消費者目線を思い出しますに、相当稀少なはずです。ゆくゆく有名になって、リピーターさんがいっぱい出来て、予約販売開始と同時に即完売、みたいになったらいいなあと妄想がはかどりますね(さすがにそれは無い)。
園主